業務はやはり基本に沿って
相談者(依頼者)は70代の男性。
従姉にあたる方から入院時の世話をはじめ、死後の財産処理、法事等一切を任されました。公正証書遺言が作成されており、相談者が遺言執行者に指名されていました。
相談者は妻が死亡。成人の子が1人。従姉も独身で法定相続人は不在でした。
遺言者死亡後、私どもが調査したところ相続財産は約9千万円と高額。
この相談者が私の事務所へひんぱんに来所したり、電話で相談するようになったきっかけは、高齢者団体からの依頼で行なった遺言講演会でした。
その場でもこの方は質問されたのですが、内容が複雑なためと説明が不明な点もあり、資料持参の上事務所へ来てもらいたいと述べました。
無料相談会やこの事例のような講演会では、相談者の説明が不十分なことや資料がないと判断できないこともしばしばです。このような場合は、日時を指定して後日、事務所へ来てもらうことをおすすめします。
講演会では、質問や相談は1人ではないので、ずっと特定の方の相談を聞いているわけには行きません。できるだけ多くの方の相談を受けるように心がけてください。
さて、その後この相談者が来所や電話相談をくりかえしているうちに、従姉の方が亡くなりました。
そして、私どもへ遺言執行を依頼して来ました。
相談者が遺言執行者に指名されていましたので、私どもが委任をうけることになりましたので、当然のことながら契約書を取り交わしました。
ここまではよかったのです。
調査を開始して銀行ごとに解約手続を行っていたところ、弁護士を通して遺言執行の委任解約を通知して来ました。ご承知のように委任は一方的に解約が可能です。
通知には解約理由は記載されていません。
考えられるのは当方の調査で相続財産が9千万円でありながら、実際には約6千万円。この3千万円の不足は何か。この点について問い合わせた直後の解約です。
不足分が生前贈与であればそのまま贈与を受けたとして申告すればよいのです。この指摘が納得いかなかったのかも知れません。
ともかく、ここで業務は終了ということになりました。
それでは、遺言執行報酬はどうなったか。
契約上は着手時60%でしたから、それは請求可能です。しかしながら、相続財産に多額の預貯金があることに油断してしまい、
業務完了後、一括して請求すればよい、と考えたため、1円の着手金も受け取っていませんでした。
これは大変な失策です。
委任解約通知が届いたときに、弁護士に相談するべきだったかも知れません。遺言執行についての契約書があるのですから。
しかし、このような方はおそらく私どもの対応に対して、あそこの事務所はひどい、何もしないくせに6割もの金をふんだくって行った、などと会員へ言いふらしたでしょう。かなりの銀行を回り手続を済ませていたので、着手金程度の業務は十分に果たしました。
また、問題のある不動産の処理、今後の遺言者の墓、寺との交渉など周辺業務の件も進めていたので、尻切れトンボ的な終わり方もこちらにとっては不満足でした。
せめて最低着手金の78万円を受領していれば、まだ救いがあったかも知れません。
講演会から約2年間、数多く相談を受けてそのたびに検討したり面談を繰り返したのですが、上記のような結果となってしまいました。
今回は失敗談であまり皆さん方に心地よい経験談ではなかったかと思われます。しかし、実務の世界は何が起こるかわかりません。依頼者の皆さん常識的で好意的とはかぎりません。
私の経験ではありませんが、最後に全額を支払うと言っておきながら、完了後、逃げてしまった依頼者もいます。
十分注意して業務を進め、集金にも注意してください。